伊豆文学散歩
八丁池

八丁池

八丁池は標高1,125mにある稜線歩道沿いの断層湖で、周囲がスズタケに覆われているので別名「アオスズの池」とも呼ばれる。天然記念物「モリアオガエル」の生息地としても知られている。八丁池までのルートはたくさんあり、一般的には旧天城トンネルからブナやヒメシャラの自然林を行く上り御幸歩道と、寒天車道の八丁池口から「野鳥の森」をたどるコースとがある。

碑文

万三郎からの緩い下りは、スクスクと立った大きなブナ林の中を行く気持のいい道だった。片瀬峠という鞍部に着き、それから又上り坂になるが、それが今日の最後の登りであった。登り切った所が小岳。命の短い冬の太陽はもう大分傾いて、風がビョウビョウと鳴っていた。小岳から急坂を下ると、あとは大して上り下りのない平らな道になった。しかし長かった。途中、片瀬峠、白田峠などという物寂びた峠が、道を横切っていた。 どことなくあたりが開けてきたと思うと、ひょっこり眼の前に八丁池が現れた。それが特に親しいものに感じられたのは、単調な長い道を歩いてきたあげくだからだろう。夕暮れの空をうつして池は静かに横たわっていた。(深田久弥「わが愛する山々」より)

所在地:伊豆市湯ヶ島