
横光利一 文学碑「寝園」
作中に湯ヶ島、天城山が舞台の一部として登場し、猪狩でのできごとがモチーフになっている。舞台となる天城の描写について川端康成が「実地を見ての写生に基づいて描かれてはいない。横光氏の空想による描写であろうと思われる」と述べているが、横光の文学的立場をうまく言い当てているところがあっておもしろい。
碑文
そのうちに、一度遠くへ去った犬の団塊が山毛欅の森の端を迂回して、前面の森の頂上へ追って来た。数羽の山鳥が勢ひ良く飛び立つと、奈奈江の頭の上を越えていった。と、一疋の首尾を逆立てた猪が、圓々と栗のやうに膨らんで蔓草の上から飛び出て来た。続いて瀧のやうに数十疋の犬の群れが猪の後から流れて来た。猪は大草を乗り越え踏み越えしながら、道まで出ると一寸停ち止って左右を見た。その隙に乗じて、数疋の犬が猪の首と股へと飛びついた。が、猪は後足で蹴上げると、忽ち犬は逆さまに高く抛ね上って投げ出された。猪は再び急速な勢ひで、陽の光とは反対な奥の方へ廻ろうとした。
所在地:伊豆市 踊り子歩道 野畦